岩相層序学の目的と授業の目標

これから5−6回にわたって,この授業では岩相層序学を学ぶ.岩相層序学は普通は堆積岩を中心とするが,火成岩・変成岩も対象となることがある.

地球科学の多くの分野(例えば構造地質学・堆積学・古生物学・水文学など)では,地球環境の変遷を明らかにするために,堆積岩の集まりである地層を研究対象としている.層序学はそれらすべての分野の基礎となる.

そもそも,層序学とは何だろうか.地質学の辞書であるGlossary of Geology(4th Eds.)で層序学(stratigraphy)を引くと,そこには

(a) The science of rock strata.

と書かれている(Jackson, 1997).つまりこの定義では,地層の科学はすべて層序学という一方,次のような定義もこの辞書には記されている:

(b) The science dealing with the description of all rock bodies forming the Earth's crust... (中略) Stratigraphic procedures include the description, classification, naming, and correlation of these units for the purpose of establishing their relationship in space and their succession in time.

(b:成瀬和訳)地殻を形成するすべての岩体の記載を取り扱う科学...(中略) 岩体の空間および時間的な関連性を確立するということを目的として,層序学的研究手順には岩体ユニットの記載分類命名対比が含まれている(Jackson, 1997).

こちらの定義には,いくつか我々にとって重要なキーワードが顔を出している.

まず,層序学の目的は地層の「記載」である.大まかに言えば,「記載」という言葉は,「データの記録」という意味である.層序学はデータの解釈よりも前の段階の,そもそもデータをどのようにして記載(記録)すればよいかという重要な基礎を与えてくれる.この層序学から得られたデータに基づいて初めて,さまざまな発展的研究が可能になる.

次に,分類という言葉が現れている.地球上の岩石はどれも異なった特徴を持ち,どれ一つとして同じ岩石は存在しない.河原で石ころを拾えば,そのすべてが違う特徴を持つことがわかるだろう.しかし,地層の時間・空間分布を理解するためには,ある程度の違いを無視してほぼ同質な岩石を認定し,一つの「岩相」として記録しなくてはならない.このときに,どのような観点から岩相を認定すればよいかという点が岩相層序学の重要な焦点となる.

そして,「分類」された岩石には,名前がつけられなければならない.「命名」は岩相層序学の重要な課題である.地質学者の間で普遍的に通じる名前を岩石に与えれば,他の研究者にその岩石にどのような特徴があるのかを短時間で伝えることができる.

最後に,認識され,名前をつけた「岩相」を対比することも岩相層序学の重要な使命である.どの地層とどの地層が同時に形成されたのかを明らかにし,岩体の空間的・時間的連続性を示す作業を対比と呼ぶ.この作業によって,我々は地層を時間とリンクさせることができ,そこから古環境変動などさまざまな情報を得ることができるようになる.

さて,Glossary of Geologyには層序(Stratigraphy)の3つ目の定義として,以下のようなものも載せられている.

(c) The arrangement of strata, esp. as to geographic position and chronologic order of sequence.

(c:成瀬和訳) 地層の配列.特に,地層の地理的位置と時間的順序のこと

これは簡潔に「層序」の意味を述べた定義である.層序とは地層の上下の重なり方や順序を意味する用語で,下位から上位へ垂直的に,つまり時代の古いほうから新しいほうに向かって,どのような地層がどのような関係で重なっているかを示す単語である.この「層序」をどのように取り扱ってデータ化したらよいのか,それをこの授業では学ぶ.

抽象的な話が多くなったので,少し具体的な例を挙げる.

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サンゴ・石灰藻・ウーライト・石灰質砕屑物

遠洋性堆積物(Pelagic sediments)

有孔虫・ナンノ化石・珪藻・放散虫

蒸発岩(Evaporite)

岩塩・石膏


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