堆積学

まず,「堆積」とはいったいどんな現象なのかを定義しよう.ある地点で「堆積」が起こるということは,地形面が時間的に上昇することを意味している.なんらかの基準面からの鉛直距離\(\eta\)で地形面を表すとすると,堆積という現象は以下のように定義することができる:

\[ \label{deposition} \frac{d \eta}{dt} > 0 \]

一方,「侵食」とは,地形面が時間的に下降することである.つまり,

\[ \label{erosion} \frac{d \eta}{dt} < 0 \]

ということになる.さて,これら式\(\ref{deposition}\)\(\ref{erosion}\)で「堆積」と「侵食」は十分に定義できているだろうか?明らかに,これらの定義は不十分である.なぜなら,単なる地形面の上昇・下降は地殻の構造運動や堆積物の圧密によっても引き起こされるからである.

もう少し「堆積」・「侵食」をきちんと定義しよう.この総説では,地形を構成している物質(通常は砂や泥などの「堆積物」)の量が局所的に変化することで,地形面が上昇したり下降したりする現象が堆積作用(侵食作用)であると定義したい.今,ある一地点(1区間)に存在する堆積物の総量\(q_d\)がどのように変動するかについて考えることにする.長さ\(\Delta x\)の区間における地形面の高さ\(\eta\)の変動と,その区間の地形を構成している堆積物の量\(q_d\)の変動との関係は,

\[ \label{dqddt1} \frac{d q_d}{dt} =(1 - \lambda_p) \Delta x \frac{d \eta}{dt} \]

であらわされる.ここで,\(\lambda_p\)は堆積物の間隙率である.

 さて,これで堆積・侵食の定義は十分だろうか?明らかに,まだ不十分である.このような,ある区間の地形面を構成している堆積物の量が変化する現象は,水流や風などの堆積物運搬作用によって引き起こされる.したがって,「堆積」や「侵食」を定義する際には,堆積物の局所的な量の増減と堆積物運搬作用との関係性を考慮したものでなくてはならない.

そこで,いま地点\(x\)において水流や風などの作用によって運搬されている堆積物の単位時間当たりの体積流量を\(q_t(x)\)であらわすことにすると,地点\(x\)から\(x+\Delta x\)までの区間に存在している堆積物の総量\(q_d\)の時間変化は以下のように表される:

\[ \label{dqddt2} \frac{d q_d}{dt} = q_t(x) - q_t(x + \Delta x) \]

この式は,上流地点\(x\)から流入した堆積物の量から,下流地点\(x+\Delta x\)で流出する堆積物の量を差し引いたものが,その区間に単位時間当たりに残される堆積物の量であることを示している.式\(\ref{dqddt2}\)を\(\ref{dqddt1}\)に代入すると,以下の式が得られる:

\[ \label{detadt1} \frac{d \eta}{dt} = - \frac{1}{1 - \lambda_p} \frac{q_t(x + \Delta x) - q_t (x)}{\Delta x} \]

式\(\ref{detadt1}\)は堆積・侵食現象のシンプルな説明である.ある区間に着目すると,上流側からやってくるものの量が下流へ出て行くものの量よりも多ければ,その場所は堆積場となり,地形面は上昇する.一方,上流から来る物質量よりも下流へ抜けていく物質量が多ければ,その場所の地形面は下降する.すなわち,いま注目している区間は侵食場になることがわかる.

さて,\(\Delta x\)の極小を取ると,式\(\ref{detadt1}\)は以下のような偏微分方程式となる:

\[ \label{exner} \frac{\partial \eta}{\partial t} = - \frac{1}{1 - \lambda_p} \frac{\partial q_t}{\partial x} \]

この式\(\ref{exner}\)が,通称Exner方程式と呼ばれるモーフォダイナミクスの基礎式である(Exner, 1920).Exner方程式は,その意味を考慮して堆積物質量保存式(堆積物連続式)とも呼ばれる.


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Last-modified: 2010-04-05 (月) 13:58:04 (3177d)